思いがけず流れ着いた宇都宮のスナック「Dream」で翻弄された

東京へ飲み屋巡りに行き、御徒町で3軒の酒屋で角打ちし、新橋で3軒ハシゴした。
いつもは独り飲みなので自分のペースでまったり飲むから6軒のハシゴでもヘロヘロに酔うことはないが、新橋では旧知の友人諸氏と飲んだのでテンション上がっちゃって、けっこうベロベロになっていたのであろう。

いやベロベロに酔っているという、自覚はなかった。
だから友人諸氏と別れて、まだそんなに夜は深くないし、せっかく東京に来てるんだからと欲を出して飲酒を続行しようと考えたわけなんです。
そんなわけで新橋で電車に乗って、神田へと向かった。

……はずだった。
新橋から神田へは山手線で、ほんの5分ほど。
乗ったと思ったら、すぐ降りるってな移動時間。
そんな短い間に、寝ちゃってたね……。

ハッと気づいて、なんかマズいと慌てて電車を降りた。
いま思えば乗ったままiPhoneで現在位置を確認することだってできたわけだが、うっかり寝ちゃってた時って冷静な判断力を失っているのか、とりあえず降りなきゃマズいって思っちゃうのよね。

ホームに降りても駅名では現在位置の見当がつかず、駅を出た。

雀宮駅

雀宮……どこだそれは。
駅前の案内地図を見て、ようやくそこが栃木県であることがわかった。
栃木……こう言ってはアレだが、たぶん死ぬまで訪れる機会はないんじゃないかなと思っていたのだが、俺は何故か栃木にいた。
いや、何故かってことはない、電車で寝ちゃってたからだ。
俺は京浜東北線に乗ってたわけね……山手線だろうと京浜東北線だろうと神田へは行けるじゃん、と来た電車にとりあえず乗っちゃったというアバウトさが裏目に……いや寝ちゃったからなんだけど。

雀宮駅

それにしても……もう上り電車はなかった。
時刻は24時半過ぎ、駅に掲示された時刻表で下り電車はまだあることが確認できた。
雀宮駅の周辺は暗く静かで、駅前の案内地図を見ても始発まで過ごせそうなスポットは無いように思え、ここにいてもどうしようもないと下りの電車に乗ることにした。

そうして俺は、宇都宮へ流れ着いたのです。

宇都宮:餃子の街

宇都宮は、静かに俺を迎えてくれた。
時刻は25時過ぎ、この日は金曜だったが、駅周辺に週末の夜の賑やかさはなかった。

宇都宮:餃子の街宇都宮:餃子の街

ただ静かに、餃子たちが俺を歓迎してくれていた。

宇都宮:餃子の街宇都宮:餃子の街

確かに宇都宮といえば餃子だが、俺が求めていたのは餃子ではなく、上りの始発までの時間を過ごせる場所だった。
雀宮は聞いたこともない地名だったが、宇都宮ならそこそこ大きな街で朝まで過ごせるだろうと思ったのだ。

とにかく、駅周辺を歩いてみる。
駅から少し離れて、繁華街があるのかもしれない。
とりあえず西口側にコンビニがあったので、タバコを買うついでに近くにネットカフェはないかと店員に訊いてみたのだが、徒歩圏内にはないとの答え。
うーむ……始発まで4時間ほどという時間帯でホテルに泊まるのは嫌だし、ネットカフェがないなら朝までやってる飲み屋で過ごすしかないな。
飲み屋は東口側に多いとコンビニで教わっていたので、東口のほうへ行って少し歩くとすぐに飲屋街みたいなエリアがあって、助かった。

しかし、この時間帯は、オネーチャンがいる飲み屋の他に営業している店はほとんどないようだった。
どうやらバーや居酒屋で明け方まで営業している店は少ないようで、人通りがあるのはスナックやキャバクラが入居している雑居ビルの辺りで、客引きのオニーチャンも何人もいた。
ラーメン屋とかはあったが、始発まで過ごせそうではなかった。

うーん……予期せず訪れることになった宇都宮で、戯れにオネーチャンのいる店で飲むのも酔狂で良いかもしれん。
まだ酔いが継続してもいたし、うっかり寝過ごして隣の県の埼玉さえ通り越して栃木県まで来ちゃった自分のアホさ加減に捨て鉢な気分になっていたこともあり、もうどうにもでもな〜れってな心境であったのです。
そんなこんなで、客引きのオッチャンに誘われて一軒のスナックへと……良い子は真似しちゃダメだよ!

Dream:外観

雑居ビルの薄暗いフロアの奥に、そのスナックはあった。
ま、画像は帰りに撮ったものなので、看板の照明も落ちてて暗いんだけどね。

「Dream」という屋号で、そこはタイ人女性の店だった。
小ぢんまりした店内に先客はなく、フロアに案内され席に着くと、両サイドにタイ人女性がついた。
客引きのオッチャンには3.000円で時間制限なし始発まで過ごせると言われていて、まず先払いで3,000円。
テーブルには「JAPAN」っていう見たことない銘柄の焼酎の瓶と、水や氷のセット。
とりあえず俺は焼酎が苦手なのでウイスキーの水割りをお願いしたが、ウイスキーの銘柄は確認する気にもならず。
そして、両サイドのオネーチャンからドリンクのおねだりがあり、それを了解するとママも席にやってきて3人のオネーチャンにドリンクを提供することになったのであった。
うぬぅ……店が盛況であればオネーチャンは一人しかつかなかっただろうからドリンクは1杯で済んだろうが、ヒマだったせいで3杯の出費になったわけだよ。
これでもう、トータル6,000円になったってことで、これってホテルに泊まったほうが安く済んだんじゃね? と思ったわけなんですよ、ねぇ?

しかしまぁ、タイ人のオネーチャンは気取らない朗らかさがあって、それなりに楽しい……ような気もしつつ、このオネーチャンたちがすぐ母国語で喋りだすんだわ。
3人のタイ人に囲まれて、こちらからタイの話題を振る。
タイの人はみんなパクチーが好きなのか、キレイなオネーチャンに見えて実は男っていうオネーチャンはいっぱいるのか、みたいに。
すると最初は日本語で答えてくれるのだが、すぐにオネーチャン3人で母国語で盛り上がりはじめ、ちょっと待ってくれ何を喋ってるんだと通訳してもらうって流れに何度もなった。
知らない街の客引きに案内されたスナックでオネーチャンたちが知らない言語で喋ってる、ってなにこれ。
非日常に翻弄されたわ。
これはひょっとして俺が言葉がわからないのをいいことに日本人のアホなオッサンからボッタくる相談をしてるのかと思ったが、どうもそうではないようだった。
まぁ実際、法外にボッタくられてはいないしなぁ、オネーチャンのドリンク代は想定内だったし。
いや3人分ってのは想定してなかったが。

すぐ母国語になっちゃうのは、ただ単にタイのオネーチャンは天然でマイペースだからなんだろうなぁって風に感じたんだけど、そのマイペースのせいで客が入んないんじゃないか……?
やっぱさぁ、わかんない言語で喋られちゃう店って、あんまり客に好まれないと思うんだよね。

それはそうと、始発まで過ごせるって話だったが、あまりにヒマなのでオネーチャンを帰すわと宣言された。
で、ママ独りが残って、まだ居てもいいと言われたが、いたたまれなくなって撤収することにした(笑)。
ま、あと1時間ちょいで始発って時間まで過ごせたので、良しとする……良しとしようポジティブに。
思い出の品としてライター頂戴つってもらってきた。

Dream:ライター

使ったのが6,000円だから、安いビジネスホテルに泊まれたのではと思っちゃうんだけどねぇ、せっかく思いがけず訪れた土地で、ただ寝ちゃうってのも面白くないしな。
それと経験上、深夜に酔っぱらいが予約なしの飛び込みでホテルのフロントを訪ねても、断られることがある。
すごく安いホテルはフロント閉めちゃってるところもあるしね。
まぁ逆に、24時以降のチェックインに割引料金を設定してるホテルもあるけども。

それにしても、京浜東北線じゃなく山手線に乗っていれば。
宇都宮駅の近くにネットカフェがあれば。
そもそも、寝過ごさなければ。
などと、“if…”を考えてもなんにもなんないんだよね。
寝過ごして宇都宮まで行ってタイのオネーチャンがいるスナックで飲んだ、という経験が血肉となって俺の人間的な深みになるのだ。
いや……なんねーよ。

最後に、このブログを読んでくれてる皆さんに言っとくけど、知らない街で客引きについてっちゃダメよ!
いや知ってる街でも客引きについてっちゃダメだよな。
俺の失敗が皆さんの糧になれば幸いです。