最近、昭和の面影を残しながら可愛い商店街として人気らしい空堀商店街にある、「旧ヤム亭」という店だ。
その店を評価している友人と上本町で飲んで、せっかくだから空堀まで足を延ばしたいと夜の商店街を歩いてみた。
無計画に行ったので、目当ての「旧ヤム亭」は閉店時刻が近づきつつあり、立ち寄るのは止めておいた。
九州在住の俺は知らなかったが、大阪独自のムーブメントとして“スパイスカレー”が盛り上がりを見せているらしい。
その先駆となったのが南船場にあった「ヤムカレー」で、そこが閉店して谷町六丁目で復活したのが「旧ヤム亭」ということになるそうだ。
そして今や大人気で、大阪に2店舗、東京の下北沢にも1店舗と展開している。
大阪に行っての二日目に梅田にいたのだが、昨夜「旧ヤム亭」に行き損ねた記憶が消えぬままで、谷町線でカレー食いに行こうかなぁと考えてみたりした。
が、あいにくランチ後のアイドルタイムで「旧ヤム亭」は開いていない時間帯だった……が、近くにも店舗があると思い出した。
大阪駅の商業施設ルクアの地下に「旧ヤム鐵道」があり、夜まで通し営業なのだ。
大阪以外では馴染みのない店名だと思うので“キュウヤムテツドウ”と読みを記載しておくね、俺も初めは“えっ、なんて読むの?”って思っちゃったから。
それにしても、この店舗が入居しているルクアB2F『バルチカ』というのは多くの飲食店が軒を連ねるフロアなのだが、どこもなかなかの行列ができている。
目的の店にも行列があり、並ぶの嫌いだから諦めようかとも思ったが、昨夜やっぱり「旧ヤム亭」行っときゃよかったという後悔やら店に辿り着くまでにルクアって何だよ大阪駅の中にあるのか外にあるのか大丸梅田の別棟にそういう名称がついているのか大丸とはまったく関係がないのかルクアとルクアイーレは違うものなのか等々けっこう迷って辿り着いた苦労を徒労に終わらせたくないし二日酔いなんだけどカレー食ったらシャキっとするかもなぁ、とかって複数のファクターが重なり合って自分の背中を押すので頑張って並びました。
並ぶ間、店頭に掲示された“今月のカレー”の案内や“カレーの楽しみ方”というガイダンスを眺めていた。
この店では月替わりで4種のカレーがあって、そこから2種を選んで“あいがけ”で楽しむのが推奨されていると把握できた(“トリプル”と“オールがけ”というオプションもあり)。
このときの“今月のカレー”は以下の通り。
A:柚子味噌がけ ネギ塩牛豚キーマ
B:春菊と白いんげんのピメン豚(トン)キーマ シャキッとポテトのブラバス和え
C:金柑菜の花サラダと食べる 花椒ほんのり薬膳鶏キーマ
D:ジャンさん式! カリフラワーと金時人参の野菜カレー
どういう注文にしようか心が決まった頃に、席に着くことができた。
AとBの“あいがけ”にした。
AもBもキーマじゃないか、とツッコミを受けそうではあるが、CとDは恥ずかしながら俺には味が想像できなさ過ぎて敬遠してしまったんだ。
こちら、柚子味噌がけ ネギ塩牛豚キーマ。
そこまで柚子は主張せず、穏やかに和風なテイストが加味されて。
こちら、春菊と白いんげんのピメン豚(トン)キーマ シャキッとポテトのブラバス和え。
ブラバスはそう辛くなく、ポテトの食感とあいまって良いアクセントかつ箸休め的なポジション。
それぞれをスプーンで、カレーだけすくって食べてみる。
どちらもスパイスの競合と調和が奥行きを感じさせる味わいで、どちらもキーマなのに違う美味しさがある。
そしてそれぞれのカレーとターメリックライスをあわせて食って、さらにカレーとカレーとライスをと食べ進めていくと、もうどんどん奥へ深みへと深淵へと複雑に重奏的な味を楽しむのが止まらなくなってしまう、という感じなんだ。
そしてライスの頂きに添えられたピクルスの酸味とチャツネ(なのかなぁ?)的なものの甘みで、フッと平常心に一瞬戻ったりするが、すぐさま逆にこの酸味と甘みとカレーとカレーを一緒に食ったらどれだけ味は縦横に複雑な彩りとなるのだろうかと食べ進めるのを止められなくなる、のだ。
さらに駄目押し的に、ヤムカレー。
この小さなソースポットの、スープカレーのようにサラっとしたものがヤムカレーと呼ばれ、どういう組み合わせでカレーを注文しても付いてくる。
これ自体は(たぶん)クミン(とフェネルかな)の香りが鮮烈で、漢方っぽいほろ苦さも少し感じるもので、これを加えることで皿の上は、またひとつ次元を超えるようなスパイスの饗宴となるのだ……いかん書いててどんどん妙なテンションになってキモい文章になってる……というくらい、今になって思い出しても感性に影響をきたすほど魅了されたのだと判っていただきたい。
すっかり、魅了された。
ところで。
なんで屋号に“鐵道”とあるんだろう(旧字体なのはともかく)、大阪駅にあるからかな、とか思ってたが店作りのコンセプトが鉄道モチーフなのね。
後になって店を思い起こして画像検索して気づいたが、車窓を模した小窓があったり壁に作りつけられた金属製の棚に旅行鞄が置いてあったり、あとあからさまに信号機が飾られてたりしたんだねぇ……まったく気づかなかったよ。
なにしろ混んでいて窮屈でもあり、周りは女性やカップルだらけで、独りオッサンが周囲をキョロキョロしてたらキモがられると思って店内を観察してなかったし、カレーに夢中だったし。
だが、フロアのスタッフはクラシカルでダークな色調のメイド服で、みんな可愛かったのは見ていた。
それは、食堂車の女給さんということだったんだな。
これで、スパイスカレーというものに目覚めてしまった。
ぜひ「旧ヤム亭」に行きたいと思うし、機会を作って中之島の「旧ヤム邸 中之島洋館」も行きたいし、なんなら下北沢の「旧ヤム邸 シモキタ荘」にも行ってみたい。
別の系統のスパイスカレーが谷町辺りに集まってるようだし、生野にも惹かれる店があると知った。
大阪では、飲み屋だけじゃなくスパイスカレーも巡りたいと思うようになった。
↓「食べログ」での店舗情報
旧ヤム鐵道 (カレーライス / 大阪駅、梅田駅(大阪市営)、梅田駅(阪神))