朝から夜まで京橋と天満で7軒のハシゴ酒をしてヘロヘロになった。
もう飲めないよぅムニャムニャ……という有様で、これはもう早く部屋で横にならねばという状態。
そうしてフラフラと谷町辺りを歩いていたら、気になってしまう看板を目にしてしまった。
激安とか半額とか若いピチピチギャルが、とか、なんらかのベネフィットが提示された看板ではない。
通りすがる者のハートを掴もうとする惹句はなにもない、ただ屋号が記されたに過ぎない看板。
アラン
ただそれだけ。
その看板はこの、通りの角に寂しげに佇む店のものであった。
アラン、というネーミング、この佇まい。
その2つが、なぜだか俺の心を掴んだのであった。
その店は飲み屋だと判り、でも酒はちょっと飲めない状態でもあったが、なんだかどうしても立ち寄りたくなった。
そんなわけで、谷町9丁目「アラン」にフラリと入ってみたのです。
狭い店内にはママさんと、常連らしき男性客が一人。
なんだかちょっとスナックっぽい。
カウンター席に座って、もうあんまり飲めないほど酔ってるので、すごく薄い水割りくださいとお願いした。
ウイスキーの銘柄などもはやどうでもよく、とにかく薄くしてくださいと。
水割りを飲みながら、俺が心を掴まれたことについてママさんに訊いてみた。
この店の屋号は、アラン・ドロンに由来しているのかと。
答えは、アラン・ドロンだった。
今の若い人は知らないかもだが、アラン・ドロンというのは一世を風靡したフランスの二枚目映画スターだ。
二枚目、ハンサムの代名詞であった。
俺は中学の頃から映画が好きで、でもアメリカンニューシネマとかが好きだったのでアラン・ドロンが出た映画はあんまり観てないんだけど、やはり彼は映画スターだと認識してた。
というか、そんなに映画に興味がなくてもアラン・ドロンくらい誰でも知ってるというほどスターだった。
日本のCMにも出てたりしたしね。
しかし今や、過去の存在だ。
その名を目にしたり耳にすることは、もうほとんどない。
そんな21世紀2015年に、看板に“アラン”とあるのを見かけて、これはアラン・ドロンからとった屋号なんだろうかと気になり、どうしても確認したくなったのだ。
そんな理由で迷い込んできて、もう飲めませんムニャムニャなんて言ってる客は迷惑だよなと思うのだが、ウェルカムに迎えてくれました。
良い店だなぁ。
ホワイトボードに酒のアテがいくつか書いてるなかにリンゴがあって、リンゴをもらった。
リンゴは1個だと言われたが、そんなには食えないので無理を言って半分にしてもらった。
迷惑な客だなぁ。
リンゴ、美味しゅうございました。
ちょっとこの店には、改めて伺って酒をガブガブ飲まなければと思った。
「アラン」大阪市中央区谷町9-3-19