それほど目立たない、間口の狭い、通りから少し奥まった寿司屋だが、なんだか存在感があった。
「すし処 賛志郎」という店。
店先に品書きの案内があって、見ると安い。
寿司屋さんの価格帯を判断する俺の基準は、細巻と日本酒の値段。
こちらは十分に俺にも払える庶民価格だ。
そしてまた、暖簾のかかった引き戸のガラス越しに店内を窺うと、初老の先客氏がタバコを喫っていた。
いいね、喫煙できる寿司屋だ。
細巻が安くてタバコが喫える寿司屋は、俺にとって良い寿司屋だ。
暖簾をくぐると元気な大将が迎えてくれた。
カウンター席のみで、先客はお一人。
先客氏とふたつほど空けて席に着いたら、まずは飲み物を訊ねられた。
日本酒を冷やでとお願いすると、どんな酒が良いかとのことでサッパリ辛口を所望。
涼しげな透明の徳利と猪口で酒が出された。
「厳選辛口 吉乃川」、新潟の酒だ。
すっきり、うまかった。
ラベルを撮らせてくれるよう大将に言うと、どうせなら裏も撮るよう促された。
先客の常連氏によると、大将は自らは酒を飲まないそうだが、酒の吟味だけはしっかりしているとのこと。
ガリをのせた葉蘭が敷かれ、それじゃなにか握ろうかという流れに。
いまはそう腹は減ってないしアテが欲しいと言うと、お造りを少なめで出そうかと提案してくれた。
本当に、少なめで、でも種類が多く盛られていて酒飲みにはこういうのがすごく嬉しい。
こういうので、二合は軽く飲める。
大将は、とてもよくしゃべる。
先客氏が先に帰られて、残る俺は一見の見知らぬ客だから会話は途切れるかと思いきや、まったくとめどなく大将はしゃべるので、それを肴に酒がすすむという様相を呈してきた。
これちょっとおしゃべりが苦手な人には苦痛かもってレベルのトークの連鎖。
しかしまぁ、話題が豊富で俺には愉快だった。
締めに鉄火とカッパ巻き。
あまり寿司を食わずに申し訳ないなと思ったが、べつに大将は気にしていない風だった。
安くて、酒飲みに寛容で、タバコが喫えて、飽きない寿司屋。
ここは、俺にとっての寿司屋の理想郷のひとつかもしれない。
↓「食べログ」での店舗情報
賛志郎 (寿司 / 大阪難波駅、なんば駅(大阪メトロ)、JR難波駅)