動揺した。
あ、フライヤー配ってるのかと気づいて平常心を取り戻した。
うん、だよね、そういうのでもなければ俺が女性に声をかけられることなんかねぇよ、うん。
警固に「Swing & Soul」ってバーがあるんだね、知らんかったけど。
隠れ家バーとのことなんで、まぁ気づかなくても無理はないのだろう。
どうやらミュージックバーなんだね、楽器とかPAとか用意してある店なんだろう。
そこで、友達が歌ってるんです、今。
ということだった。
シンガーの友達のため、暗くなった通りでフライヤーを配る友達……偉いやん。
いや、揶揄とかじゃないよ、素直に良い友達だなぁと思ったんだ。
この日は昼下がりには晴れ間も見えたが、日暮れに激しく雨が降った。
そんな日に、路上でフライヤーを手配りして、俺みたいな怪しい風体のオッサンに声をかけるなんて。
なんて熱心なんだ。
その女の子のシンガーも、そういう友達がいるんだから本人も魅力的な人間なんだろうね。
ちょっとでも宣伝になるかもしれんから、Facebookページ貼っとこ。
……えっと、貼ってマズいとかないよね？
シンガー、表現者なんだから、Facebookは秘密ですとかないよね？
本人の公式サイトもあるくらいだし、大丈夫だよね。
マズかったら連絡ください消します。
んー、俺そんなにジャズってよくわかんないんだけど、せっかく知ったことだし、いつか聴きたいかもしんない。
フライヤー配ってた女の子のおかげで、近所に隠れ家バーがあるんだと知ったな。
そちらも、せっかく知ったことだし、いつか行きたいかも。
なんかまぁ、世の中いろいろご縁があるもんだね。