博多区の住吉って、キャナルシティがあって住吉神社があってとニギヤカな印象かもしれないが、住吉通りを越えて美野島方面へ向かう辺りも住吉なのであり、そちらは地味な印象だと思う。
ニギヤカな住吉は1丁目から3丁目で、地味な住吉は4丁目と5丁目だ。
地味なほうの住吉を、俺は心の中で“日陰の住吉”と呼んでいた。
その“日陰の住吉”は、俺にはとても思い入れのある処だ。
住吉4丁目にある「シャン」という中華料理屋さん。
すごく久しぶりだなぁ。
この店、なかなか想い出深い店なのよ。
さぁこれから働くぞって夕方の時間帯に、しばしばこの店で腹ごしらえしていた時期がある。
仕事する活力を得るためのメシを、「シャン」で食らう。
そういう位置づけの店だったんだよねー。
しばしば利用してたのは、働く場所に近かったからというのもある。
安いし速い、というのもある。
それに加えて、味だ。
中華料理の店だが、四川風なんちゃらとか広東風本格ほにゃららとか中国四千年の歴史うんたらでは、まったくない。
日本の、庶民の大衆的な味……もっとありていに言えば、粗にして野だし下品な味だ。
厨房担当の大将と、フロアと電話担当の女の子と、配達専任と思われるオニーチャンの3人で運営しているようだ。
ひっきりなしに、出前の電話がかかってくる。
店舗に来る客より出前のほうが多いんじゃないかな。
カウンターとテーブル席があって、小上がりもあるからキャパは結構ある。
実際に、店舗を利用する客もそれなりに見かける。
テレビがあってマンガもいっぱいあるから、ゆっくり長居もできそうだ。
しかし、のんびり長居なんかしちゃいけないんじゃないかと思っちゃうほど出前の電話がひっきりなしで慌ただしそうな空気がある。
女の子が電話を受けてオーダーを大将に伝えるのが聞こえるのだが、だいたい1オーダーにつき5品ほどの注文があるようで、こりゃどんどん料理しないとオーダーをさばけないんじゃと心配になるほどだが、大将はテンパる様子はまったくなくマイペースなので、よっぽど処理能力が高いんだろうなと思わせる。
麺類、飯類、定食とかってメニュー構成で、その日の日替わりも何種類か用意される。
トンカツとかあって、そんなに中華料理オンリーなイメージはない。
俺はだいたい、ラーメンと150円で焼めしプラスして注文していたな。
仕事の前のメシだから、がっつり炭水化物摂取メニューというわけです。
焼めしは150円のオプションにしては、ちゃんとした量があるのだ。
で、ラーメンも、焼めしも、塩辛いんだなこれがまた。
俺ぁよぉー、身体動かす仕事してっからよぉー、こんぐらい塩分摂らなきゃいかんのよガーッハッハ!
という感じに、塩っぱいのだ。
まぁ俺は肉体労働をしてたわけじゃないんで、そんなに塩分は要らなかったわけなんだけどさ。
しかし、塩分ってのは、摂取するとガッツを注入された気分になるんだよ。
よーし働くぜ、って気持ちになる。
だから、この店が好きで利用してたんだよ。
“塩と油”が、ヒトが旨味を感じるのに重要なファクターだと思っている。
それが「シャン」の魅力だと思っている。
ラーメンは、そのスープでメシが食えるくらい塩っぱい。
そして焼めしは、油ぎって、塩の結晶が目に見えるくらいに塩っぱい。
塩と油がドカンと身体に響き、下品だがウメぇと感じ、パワーもみなぎる。
あ、各席には冷たい麦茶のポットが用意されるから、塩辛くて喉が渇いても大丈夫です。
出前の電話を受けた女の子がオーダーを大将に伝えるとき、配達先も一緒に伝える。
聞くではなく耳に入るのだが、どうやら中洲の南新地の、特殊浴場からの依頼が多いみたいなのよね。
うむ、ハードな業務だし塩と油を欲すると思う。
「シャン」は南新地から遠くはないがそれほど近くもないのに、出前の依頼が多いってのは、それだけ熱く支持されてるってことなんだろうね。
俺も、濃くて塩っぱい味を支持していたし、今でも好きだ。
ところでここのラーメンって、もっと豚細切れみたいな肉だったし、キクラゲは普通に細切りだった記憶があるのだが。
具材がグレードアップしたのかな、値上がりはしてないようだが。
「シャン」の近くが仕事場だったのは3年半ほどで、今はもう違うからすっかりご無沙汰だが、今でもたまに塩辛い味が恋しくなるよ。
好きだぜ、「シャン」。
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