新宿にはよく飲みに行ってた時期があって、でもほとんど新宿駅東口を出て歌舞伎町やゴールデン街に流れるという導線だった。
だから、俺は大衆酒場とか立ち飲み屋の風情が好きなんだが、大ガードをくぐってのションベン横丁には意外と馴染みがない(馴染みがないくせに“思い出横丁”という呼称は拒否してションベン横丁と呼ぶ)。
というか西口の飲み屋にはほとんど行ったことがない。
この夜は、いつも独り飲みの俺にしては珍しく同行者(オッサンだが)があり、その案内で西口へ。
その同行者にとって想い出の店、もう20年ほど前に行っていたという「VAGABOND」という店を目指した。
もう営業してないかもって話だったが、健在だった。
なんだか雰囲気のある外観で、ちょっと良いねぇと感じた。
店のドアを開けるとウェイティングバーのような空間もあったが、階段を上がって二階へ。
二階は、上がってきた階段を中心に四方に空間が広がり、そう広くはないが多くの客で賑わっていて適度な窮屈さを感じた。
どういうのかな、ああ混んでて心地良いな、という賑やかな酒場の雰囲気だ。
ピアノの側の、奥のテーブル席に案内された。
そう、ピアノ演奏がある酒場なんだよね。
長いこと営業してると同行者に聞いていたが、確かに時の流れの積み重ねを見てとれる古い調度が、良いね。
土曜の夜ということもあり、沢山の客のお喋りが、ピアノの音色の合間に聞こえてきて心地良い。
なんだか、仏蘭西のサロンってこんな雰囲気だったかしらん、とか思ってしまった。
ピアノの演奏だけでなく、詩の朗読なんかもあってそうな雰囲気、短いエチュードも演じられそうな場の空気。
アーティスティックな空気なんだよね、そういうのに弱いんだよ俺、弱いって好きって意味でね。
なんかもう、トイレまで洒落ててね。
いいなぁ、浪漫を感じるなぁ。
ところでメニュー的には、アブサンなんかがあるわけでなく、普通に洋風パブって感じかね。
高くも安くもないという価格設定ですね。
同行者と近況や昔のことを語り合い、ハイボールを何杯か飲みました。
トイレに行ってた隙に、同行者が食べものを注文していた。
その日のオススメであるらしいチーズが仕込まれたメンチカツであった。
まぁ美味しかったです。
同行者の話では、昔はドテラかなんか着た名物店主がいて、カウンターに座るといろんな話をしてくれて楽しかったそうだ。
当時でも結構な歳だったそうな名物店主は、この夜は姿を見ることはできなかった。
こういう店が残っているってのも、新宿らしいなと感じた。
新宿三丁目に残る文壇バーみたいな、そういう流れかなぁ。
俺も若い頃に東京に住んでいて此処に出逢ったなら、通い詰めたかもしれないね。
良い店でした。
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