不意に、そういう気分になった。
とりあえず部屋を出てみたが、日曜の夜のことだったから休業の店も多いだろうし前途多難な予感。
もともと“何の変哲もない町のメシ屋”なんてものは、今の時代は見つけるのがなかなか難しい。
あてもなく歩くうちに、福岡市中央区大名に。
大名は若者向けのオサレな店ばっかりと思いがちだが、意外と古くから続く店も残っている。
古本屋とか印刷屋とか、饅頭屋さんとかね。
メシ屋なら、それこそ「一膳めし 青木堂」へ行けば今の気分にピッタリのメシが食えるだろうが、日曜は休みだ。
あ、ここがあったわ。
いい感じに昭和のうらぶれた空気を漂わせる「御食事処 るみ」。
昼から角打ちが楽しめる「小谷酒舗」のある通り、「プラザホテル天神」向かいにひっそり佇んでいる。
日曜の夜もやってるんだね、助かる。
サッポロ生ビールのノボリがあって、それも救われた気がする。
これがもしアサヒファッキンスーパードライのノボリであったら、それだけで入ってみようかって気持ちが五割がた失せてしまう。
もっとも今は酒じゃなくメシを求めているのだが。
店先に食品サンプルが飾ってあるが、情報量が少ないね。
お好み焼きと麺類しかないのかしらん?
そう思いつつも、以前から機会があれば利用してみようと思っていたし、今がその機だ。
ガラガラと店に入ると、コの字カウンターのみの小さな店内に先客が何人かあった。
初老のご夫婦で切り盛りしている店のようだ。
カウンターの奥は厨房で、それに相対する面のカウンター席に着く。
目の前には予想外にネタケースがあって、ああ魚が美味しそうだなと思った。
メニューを眺めると、町のメシ屋さん的な料理が、品数は多くないが一通りあるって感じ。
おや、玉子丼はあってカツ丼はない、揚げ物はしない店なのかな。
さて、なに食おう。
ネタケースの魚を見ちゃったから、魚かなぁ。
部屋を出る前はカツ丼とかトンカツとか食いたいかもって気分だったのに、もう気持ちが変わったみたい。
焼き魚はなにができるか訊き、汐鯖をお願いした。
その前に、まずビール。
キリンラガー瓶があって嬉しい。
目の前にテレビが掛かってて、世界の衝撃映像的な番組が流れていた。
大将が奥で調理をしているようで、女将さんは椅子に腰掛けてこちらを見ていた。
こちら、というか俺の背後の壁を見ているようだった。
気になって振り返ってみると、壁には鏡があって、そこに映るテレビの映像を見てるんだとわかった。
やがて鯖が焼きあがった。
うわっ、うまそう。
焼け目も良いが、身がプリっとしてそうに焼けてる。
食ってみたら間違いなく美味しかった。
鯖でビールがすすむがポン酒にも良い、そしてなにより鯖はゴハンに最高に合う。
めし大150円と豚汁250円を頼んで定食みたいにしてガツガツ食おうか、いやこのままビールでやっつけようか。
葛藤してしまった。
ここは、ビールで鯖、と決断した。
めし、豚汁を頼まなかったのは、メニューに特製牛丼600円とあったのが気になったからだ。
玉子丼400円、焼めし450円に比べて突出した価格設定、これはなんかスゴいものかもしれない気がした。
というわけで特製牛丼を注文。
わざわざ特製牛丼とコールしたが、大将は“牛丼ね”とあっさりしたレスポンス。
現れた特製牛丼は、その器も特製さを醸し出しているようだった。
味噌汁が付き、お得感あり。
飯碗のフタを開けると、あらあらこれは。
んー、期待したのと違う玉子とじ牛丼的なものだったわ。
そんで、まぁ正直な感想を述べると、特製ってほど肉は使われてないし味付けが薄い。
添えられたタクワンと、えらい塩辛い味噌汁の力を借りて残さずゴハンを食うことができた、という味の薄さ。
んー、肩透かしだったなこれは。
後から来た客が、刺身を注文していた。
ああネタケースあるしね、刺身もできるのよね。
うん、そうか鯖が美味しかったし、この店では魚で酒を飲むのがいいんだな。
酒300円と安いしな。
よし、今度は酒を飲みに立ち寄ろう。
特製牛丼にはションボリしたが、そんなの気にしないくらい魅力があるんだな、不思議と。
昭和な雰囲気も好きだし、肩の力が抜けた和やかさを感じる。
また行こう。
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↓「食べログ」での店舗情報
るみ (定食・食堂 / 赤坂駅、西鉄福岡駅(天神)、天神駅)