と、断言してしまうのは、あまりにも主観的で傲慢だよね、別にそんなの興味ないよって男性諸氏も世の中に多数存在するだろう。
俺に限って言えば、蕎麦屋で昼間っから蕎麦前を楽しめる店を、ずっと探していた。
蕎麦文化圏ではない福岡(うどん圏です)では、それはなかなか難しいと感じていた。
が、“青い鳥”はすぐ近くにいたんだよね。
大正通り、福岡市営地下鉄空港線赤坂駅の近くにある「さらしな」という蕎麦屋。
ここは勤務先のすぐ傍で、以前から何度も店の前を通っていた。
朝はいつも、出汁を仕込んでいるのであろう良い香りがいつも漂っていた。
ああ、いつか寄ろうと思いつつ、なかなか立ち寄ることがなかった。
勤務先へ向かう朝は、まだ開いてないし。
昼は外食をすることが、ほとんどない。
帰宅時には晩になんており、俺が蕎麦屋に求めるのは昼間からの蕎麦前なので、惹かれない。
そんなこんなで、1年半ほど素通りを繰り返していたんだよね。
が、ある日、ここって昼から飲める店なんだと知った。
店先の置き看板に“昼酒でき〼”って書いてあるじゃないか。
そうだったのか。
俺はてっきり、周辺サラリーマンのランチ需要にターゲットを絞った営業スタイルだと想像していて、昼下がりには中休みをするタイプの店だと思い込んでいた。
違ったんだなぁ。
そんなこんなで、勤務のない日に勤務先の近所まで蕎麦飴を楽しむために来た。
店先にはメニューのサンプルが並んでいて、品書きも掲示してある。
よく見ると、酒のアテになるメニューがいっぱいあるし、日本酒もズラリと。
店に入ると空いていて、独りだがテーブル席に座らせてもらう。
平日の15時台だから、まさにランチのピーク後でアイドルタイムだ。
まずビール。
赤星だよ、なんだこれ、これはもう完全に昼飲み客を意識してくれてるんだなぁと嬉しくなる。
酒飲みを判ってくれてるなぁ。
蕎麦前を楽しむなら、いきなりポン酒いっとけって気もしたが、ビールの銘柄は何を置いてるか訊いたらサッポロラガーがあるとのことだったので思わず注文してしまった。
ビールを飲みながら蕎麦前の品書きをじっくり眺める。
よりどりみどり。
あっさりと、辛味大根じゃこおろし、そばみそ。
それぞれ300円、200円という安さが嬉しい。
これはもう日本酒にシフトせねば。
剣菱。
力強く、うまい。
フロアは、この時間帯は若い男子が一人で担当しているようだった。
この若者が、ちゃんとした蕎麦職人になるため大将から教えを請うて懸命に頑張ってます、といった真面目さが伝わってくる雰囲気があった。
別に注文以外の会話を交わしたわけではないが、そういう気がした。
なんとなく、そういうのって伝わってくる気がしない?
大将は、客席で蕎麦を手繰っていた。
まかないで、きっと毎日のように食べているんだろうけど、蕎麦好きだから飽きたりしないんだろうなという風に、美味しそうにズズっと蕎麦をすすっていた。
蕎麦馬鹿、という風情であって、いい光景だなと感じた。
さて、蕎麦前を楽しんだので、蕎麦を食おう。
屋号は「さらしな」だが、そこまで蕎麦は白くないね。
俺には十分に美味しい蕎麦だったよ。
……だいたい俺は、そんなに蕎麦にうるさくはないんだよ。
蕎麦前が楽しめるかどうか、ということのほうが俺には大事だ。
だから自分を蕎麦マニアだとは思っていない。
ここは昼から酒を飲めるだけでなく、カフェ的な使い方も推奨してるみたいだね。
ま、昔から蕎麦屋は甘味処でもあるって側面があるよね、だから正しいな。
この店、実に良いな。
蕎麦と丼のセットを出す特徴のない店かと見縊っていて、俺は愚かだった。
人が蕎麦屋に求める、あらゆるニーズを満たそうとする店だったんだ。
なにより、蕎麦前と酒の品揃えが充実していて通し営業であるという点が俺にとって素晴らしい。
俺が求めていた理想の蕎麦屋だと思える。
↓「食べログ」での店舗情報
さらしな 赤坂店 (そば(蕎麦) / 赤坂駅、天神駅、西鉄福岡駅(天神))