とはいえ、けっこう古い町並みや狭い路地も残るエリアで、ウロウロ探し回ってみると穴場っぽい飲み屋もあったりするのだ。
養巴コープ、という古いアパートがある。
昔は居住オンリーだったが、リノベーションってやつで飲食店が何軒か入居していて、知る人ぞ知るというノリがあるように感じる。
いや、知る人ぞ知るってよりもっと普通に知られてるかもしれないね。
俺はタウン誌とかローカル情報番組に触れることがないので知らないが、福岡の若者のあいだで有名なのかもしれない。
でも、同じような性格のリノベーション企画もの物件なのかと思える博多区上川端の冷泉荘の事は知ってたが、こちらの大名の養巴コープのことは俺は知らなかった。
だから、通りすがりに“おや面白そう?”と思って、フラリと。
アパート入口に入居してる飲食店の案内がいくつかあって、その中の「PiNON BAR」の看板に惹かれた。
“このアパートの奥でBARやってます。”って書いてあって、ああ良いね、と。
話は横道に逸れるが、俺は今では大衆酒場や立ち飲み屋、角打ちできる酒屋が大好きなんだけども、若い頃はもっぱらバーが好きだった。
そして若気の至りってやつか、よく知られているバーよりも知る人ぞ知るって店で飲んでるマニアックな俺カッコイイなんてことに歓びを感じていたのよね。
その頃の感覚を、「PiNON BAR」の看板を見て思い出した。
で、さらに話は逸れるんだけど福岡市では今泉のインペックス通りから入り込んだところにあった? 「貴流」だったかな? とかって森の中の一軒家みたいなバーとか、黒門にあった? 古いアパート改装のイタリアンな感じのバー「樋口」とか(それらは今でもあるのかどうか知らない)、昔は所在情報とかを公開してなかった住吉のアパート改装バー「空蝉」など、そういう店に行くことが好きだったし、そういうとこ知ってる俺カコイイと思っちゃってたんだよねー。
そういうの好きだったな、という自分的ノスタルジーもあってか、「PiNON BAR」の看板と養巴コープ自体に惹かれたってわけなのよ。
だいぶ横道に逸れましたが、まぁそういうわけなんですよ。
さて、アパートの奥ですよとの案内に従い、共用部分の廊下を進む。
曲がる。
進む、と突き当りが目的地のバーだ。
駐輪スペースが見えたので、このまま進むとアパートの外に出ちゃうんじゃないかと思ったが、店があった。
店というか、エントランスは小さな個人住宅みたいな“お帰りなさい”感があるね。
辿り着いて、さっそくビールだ。
キリンやサッポロはなかったので、ギネス。
たまにはいいね、ギネス。
店は、なんだか手作り感のある、温かみがあって落ち着く雰囲気。
隠れ家バーって雰囲気だし、地方の小さな旅館のロビーみたいな空気もあるかな。
柔らかいオレンジの光に包まれてて、和む。
バックバーには、正直あんまり酒がない。
その一方で、メシはしっかりとしたものが食えるようだ。
なんつーの、ダイニングバーって感じなのかな、こういうの。
メシを食いたい気分ではなかったが、なにかつまもうとメニューを眺めた。
ふむ、炙りピスタチオ?
それはどういうものなのかマスターに訊くと、殻のままピスタチオを炙ったものです、と。
それは……炙りたてのピスタチオの殻は熱々で、殻を剥こうとすると指が火傷するのではと言うと、火傷しない程度に炙ります、と。
炙ってもらった。
カラカラと炙るというか煎られたのかな、いい感じに焦げ目のついたピスタチオは、火傷しない温度だった。
うん、香ばしくて良かったよ。
先客が一人あったんだけど先に帰って、一人になっちゃったんでマスターと会話など。
若くて穏やかな感じのマスターは、ここの前に赤坂のバーで働いていて、独立して今に至るとのこと。
大名や赤坂のオススメのバーを訊いたり、なぜか麺類の話をしたりして過ごす。
気負いを感じないナチュラルな接客で、心地よく過ごせたね。
ウイスキーは品揃えがそんなにはないから、あるものを飲んだ。
なんだったっけ、メーカーズマークだったかな。
幾つかの銘柄を挙げたら無くって、消去法で選んだのでちゃんと覚えてないや。
そんなこんなで、酒を飲みに行くってより気分を楽しみに行く店としては嫌いじゃないかな。
特定の銘柄の酒が飲みたい時には、品揃えの豊富なバーに行けばいい。
なんかちょっと、柄にもなくホッコリしたい気分のときがあったら、また立ち寄るかもしれないな。
このあと、同じ養巴コープ内にある別の店を紹介されて、そちらに流れてみた。
↓「食べログ」での店舗情報
PiNON Bar (ダイニングバー / 赤坂駅、西鉄福岡駅(天神)、薬院大通駅)