居心地が良いからだ。
先に結論を言ってしまった。
東京飲み屋巡りで、ここだけは行っとかなきゃいけないだろうと思っていた。
全国的に有名な大衆酒場として定評があるし、リアルな付き合いのある酒場好きも強く薦めるのだ。
いったいどんな店なのかと、わくわくして向かった。
十条駅から歩いてすぐの、道幅は狭いけれど通りだが飲食店が立ち並んで楽しい通りにある。
ちょっとくたびれた暖簾に風情があるねぇ。
そして半分開いた引き戸の向こうの、穏やかに賑やかな様子が伺えて期待が高まる。
そこそこ広い店内は、だいぶ埋まっていた。
カウンターは一杯で、店の人の案内で奥の方のテーブル席に落ち着くことができた。
古いんだけど、すっきり整然とした印象の店内。
高めの天井の木目を活かした質感、煌煌と明るい蛍光灯も気負いがなくって良いね。
すごく歴史を感じさせる趣のある……とかってのを想像してたが、案外とあっさりした大衆酒場の風情だね。
さて、まずはビールだ。
赤星、いいねぇ。
ビールと一緒に落花生がお通しで出てきて、それをかじりながらのビールがうまい。
ビールを持ってきてくれた店のオバチャンに、おすすめを訊く。
いくつかおすすめされた中から、新たけのこ煮350円也を注文。
あー、シャキっとしながら柔らかく、出汁の味は優しくて、これはうまい。
たけのこと落花生をアテにビールを楽しみつつ、とても居心地の良さを感じた。
混んでいるけど、うるさくない。
適度に賑やかで、客はみな節度のある酔いを楽しんでいる空気。
店のオバチャンの接客は優しく、それが客にも伝播して穏やかな雰囲気になるのだろうか。
ところで、たけのこが美味しいのでビールもいいけどポン酒だなと思った。
酒を常温で。
銘柄はなんだったか、指定もしなかったと記憶している。
俺はメニューに“清酒”とだけ記してあるようなものを注文するのが好きなんだよ、特に気取らないくだけた酒場では。
どういう酒が出てくるか楽しみというのもあり、また銘柄を指定するのが小難しく野暮なように感じるんだよな、ここのような古くからの大衆的な飲み屋ではね。
酒がすすむので、アテを追加する。
月見納豆250円也。
なんでもないシンプルな、料理と呼ぶのもどうかという簡単なものだが、こういうのをポン酒に合わせるのが好きだ。
テーブルの天板が、古いが綺麗に使われているもので、味わいがある。
店内あちこちも、見渡してみると味わいがある。
椅子が不揃いなのも、なんだか好きだな。
歴史を感じさせるようなものも、控えめにある。
あくまで控えめで、老舗であることを大仰にアピールするようなところはない。
また全国的に名の知れた大衆酒場の名店だよという驕りみたいなものも、一切ない。
ああ、普通に良い飲み屋なんじゃないかと、ちょっと観光目線だとガッカリしないでもないほどだ。
店に箔をつけようと、敷居の高さを演出したり、頑固親父っぷりを演出したり、わざと行列を作ったり、メディアに取り上げられたことを見せびらかしたり、そういったこととは一切無縁だ。
当たり前に客を迎え、当たり前に酒と料理を楽しんでもらう。
ようこそいらっしゃいという気持ちをもって。
ただそれだけだから、名店だ。
とても良い店だね。
ここで飲めて楽しかった。
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